- 田副博文
- TAZOE HIROFUMI
- [ 被ばく医療総合研究所 国際連携・共同研究推進部門 准教授 ]
物質のルーツをたどる
今回は「物質のルーツをたどる」についての研究です。
地球上に広がる広大な海の水はどのように循環し、そこに住む生き物たちの活動に必要な栄養物質はどこからどのように運ばれてくるのでしょうか?実は、物質や成分のルーツをたどることは、今まで知らなかった新しい世界を発見できる糸口となる可能性があるのです。そんな物質や成分のルーツを探る方法の技術開発や応用研究をしている先生が弘前大学にいます。
世界中へ足を運ぶ旅人?
弘前大学の田副博文先生は、非常に少ない物質の量を分析するための技術開発を行い、その技術は海洋化学や水産学といった場面で今日も用いられています。さらに田副先生は、自らの手で分析するサンプルを採取するために、日々世界中のさまざまな場所へ仲間と共に足を運んでいます。
物質のルーツは、ごく微量に含まれる化学成分を調べることで、明らかにすることができます。実際に田副先生は、海水に溶けているレアアースを分析し、海水の循環や海洋生物の活動に必要な栄養物質が、どこからどのように運ばれてくるのかを解析する研究もしています。このように、警察が行う鑑識に似た作業で化学物質を測ると、今まで見えていなかったものが見えてきます。
様々なモノへ応用ができる面白さ
今までは海水や魚などを対象に分析を進めてきましたが、最近は、その延長として水産物の産地同定にも取り組み、水産学や考古学での応用研究を進めています。考古学では、遺跡から発掘される貝殻の産地を推定することで、交易ルートの解明を目指す研究に着手しています。また、田副先生は東日本大震災が起こった際に放射性核種を誰でも素早く測れる分析方法を開発し、人々の安全のために貢献しました。
しかしながら、このような分析を行う人材は世の中全体を見てもかなり少ないのが現状です。特に若者の人手が不足しており、弘前大学でも講義を開講し、青森県や企業とも協力しながら教育活動を行い、研究を進めています。
最後に、田副先生からのメッセージ
化学と地球科学は、古くからある研究分野のひとつであり、中学校や高校の授業でもその基礎的な教育が組み込まれています。特に、環境中での動きを元素周期表に照らして系統的に理解することは重要です。そのため、中学校・高校で学習する知識や実験的作法の蓄積はとても重要になります。
私の行っている研究は脇役になりがちですが、唯一無二のデータを得るチャンスもあります。さらに、技術やアイディア次第では世界で自分の研究室でしか分析できないようなものもできるかもしれません。
みなさんも自分にしかできない分析方法を開発して、自分だけの武器を手に入れてみませんか?
ぜひ田副研究室でお待ちしています!
海洋の環境試料採取の様子
陸奥新報社 2024年(令和6年)1月15日 掲載(PDF)
ライター:人文社会科学部社会経営課程地域行動コース4年 木村 愛華
イラスト:弘前大学教育学部 ひつじ玲汰
担当 :弘前大学研究・イノベーション推進機構