- 吉野浩教
- YOSHINO HIRONORI
- [ 保健学研究科 放射線技術科学領域 助教 ]
放射線を用いた制がん研究
今回は「放射線を用いたがん治療」についての基礎研究です。
みなさんは、「放射線」についてどのような印象をもっていますか?危険そう、怖い、というようなあまり良くないイメージをもつ方もいるかもしれません。
しかし、放射線は私たちの命を守るため、医療で利用されているという一面があります。
弘前大学の吉野浩教先生は、そんな放射線を用いたがんの治療や、細胞老化について研究しています。
放射線を用いたがん治療
放射線療法はがん治療の一つで、体外から放射線を照射することでがん細胞を死滅させる治療です。吉野先生は、患者を対象とした研究ではなく、細胞を用いて治療効果などを調べる基礎研究を行っています。
放射線治療は、有効な治療の一つとして受け入れられています。その一方で、放射線が効きにくい放射線抵抗性という性質をもったがん細胞や放射線が効きにくい生体内の環境が存在します。それらが原因で、一部のがん細胞が治療後も生存し、転移や再発を引き起こします。放射線抵抗性が起こる原因は様々であり、完全に解明されるには至っていないため、現在も多くの研究者がそれぞれの観点で研究に取り組んでいます。例えば、がん細胞の種類や細胞の低酸素状態がその要因となります。また、細胞小器官であるミトコンドリアも、放射線が細胞に与える影響を左右する要因の一つです。ミトコンドリアの機能に関わるタンパク質の量によって、がん細胞の死滅や治療効果などに関連する場合があることが分かっています。
細胞老化と放射線
吉野先生が現在着目している研究の一つに、細胞老化があります。一般的に、細胞は細胞老化と呼ばれる一定回数分裂をした後に分裂が止まる特徴があり、これは加齢性疾患の発症や悪化にも関わっています。
一方で、がん細胞は分裂の速度が遅くなることはあっても、完全に分裂を止めることはなく、細胞老化が起こりにくい傾向にあります。放射線はそんな細胞老化を促進できることが明らかになっており、放射線の照射によってがん細胞の増加を阻止することができるのではないかと考えられています。
しかし、照射によって細胞老化が促進されない細胞の存在も確認されているため、その放射線抵抗性の要因を突き止め、より有効な治療をするための研究が行われています。
最後に、吉野先生からのメッセージ
私は、大学4年生の卒業研究をきっかけに、今までと違ったことがしたいという思いで「生物研究」に取り組みはじめ、現在も研究を続けています。このように、長年続けられるような好きな物を見つけるきっかけは、どこにあるかわかりません。いろいろなことに興味をもち積極的に挑戦してみてください。
放射線を使用する研究といっても画像診断、放射性同位元素を用いるものなど多岐にわたります。その中で、放射線を用いた制がん研究に興味を持った方は、研究室でお待ちしています!
陸奥新報社 2024年(令和6年)5月27日 掲載(PDF)
ライター:人文社会科学部4年 斎藤 聖栞
イラスト:弘前大学大学院地域共創科学研究科 赤沼 しおり
担当 :弘前大学研究・イノベーション推進機構