- 笹部美知子
- SASABE MICHIKO
- [ 農学生命科学部 生物学科 植物細胞生物学 准教授 ]
美しい細胞分裂
今回は「美しい細胞分裂」に関わる研究です。
みなさんは「植物」というと、どんなことを思い浮かべますか?例えば、葉っぱがあって、花が咲き、根っこがあるという風に思い浮かべるかもしれません。言葉にすると同じような表現になってしまいますが、絵に描いてみると、それぞれの人が形や大きさ色も全く違う植物を描くのではないでしょうか。
植物が持つ特徴って?
植物は動物がほとんどの器官を備えて生まれてくるのとは異なり、器官を持たずに発芽します。発芽後、芽の先端に存在する茎頂分裂組織と呼ばれる幹細胞から、生育に応じて順番に器官が生じることが植物の1番の特徴です。
生育環境が整うと、葉や生殖細胞を作るための花の器官が初めて完成し、 そこから次世代を残す準備が進んでいきます。そして、この葉や花をつくるという現象は、「細胞分裂」によって支えられています。
細胞分裂は生命の起源となる現象ですが、その仕組みの詳細はまだまだ不明な点がたくさんあります。
弘前大学の笹部美知子先生は、植物の細胞分裂のメカニズムと、分裂した細胞から葉っぱなどの器官が規則的にできるメカニズムを研究しています。
細胞分裂のメカニズムを知ると見えてくるもの
植物は環境に応じて葉っぱのつく数が変わったり、花が付く時期が変化したり、また、動物や虫に体の一部を食べられても再び新しい葉が出てきたりといった柔軟な発生システムを持っています。そして、そのシステムを通してさまざまな環境の変化や病気、食害に対応しています。
人類は医療や農業の進歩とともに発展してきました。動植物の発生システムは、細胞増殖と細胞分化の制御により成り立っていますが、そのシステムの詳細を知ることは生物そのものを知るだけでなく、医療や農業に直結し、さまざまな問題を解決する技術開発の糸口となる可能性もあります。
綺麗で美しい細胞分裂
植物を細胞レベルで見てみるとダイナミックに動いて生きている様子を見ることができます。そして何よりも、細胞分裂の様子はいつ見ても規則正しく美しいのです。しかし、これらがどのような仕組みで制御されているのかを解き明かす研究は難しく、壁にぶち当たることも多いのが現実です。
それでも、植物の美しい細胞分裂の様子を見ていると、不思議と元気が湧き、その仕組みを知りたいという気持ちがムクムクと湧き上がってきます。
私達は植物なしでは生きていくことができません。脇役のような扱いを受けることが多い植物ですが、周りを見渡してみると動物と同じ位、いえ、それ以上に地球上には植物があふれていることに気がつくでしょう。
植物は、動物とは全く違った体や生き方をしていますが、動物と同じくらい生き残り戦略に成功した生物と言えます。その成功の鍵が植物のユニークな細胞分裂、細胞分化の仕組みにあります。そのようなことに少し気をとめて身近な植物をながめてみると、葉の付き方や花の形、咲く時期など、何か新しい発見があるかもしれません。
最後に、笹部先生からのメッセージ
自らの意思で動くことができない植物ですが、あらゆる環境の変化に対応して葉の形や数を変化させたり、花をつけたり、また、根の伸ばし方を変えたりと柔軟で面白い性質を持っています。そんな植物を一緒に調べてみませんか?
緻密で美しい植物細胞をのぞいてみましょう!研究室でお待ちしております。
実験材料のシロイヌナズナと発達中の胚
陸奥新報社 2024年(令和6年)3月11日 掲載(PDF)
ライター:人文社会科学部社会経営課程地域行動コース4年 木村 愛華
イラスト:弘前大学教育学部 ひつじ玲汰
担当 :弘前大学研究・イノベーション推進機構