- 山内可南子
- YAMANOUCHI KANAKO
- [ 大学院保健学研究科 生体検査科学領域 助教 ]
「アメーバ」の危険性
今回は「自然環境下に潜む感染症」についての研究です。
みなさんは「アメーバ」の危険性を知っていますか?アメーバは、湖や土の中、ほこりの中など、私たちの生活の中のいたるところに生息している単細胞生物です。
通常は自然環境に生息してヒトや動物といった宿主を必要としない「自由生活性」と呼ばれるアメーバですが、稀に人を含めた哺乳動物に対して、深刻な感染症を引き起こす可能性があるのです。
恐ろしい感染症の実態…
近年、自然界に生息し、病原性を持つ「自由生活性アメーバ」の感染例が世界各地で報告され始めています。感染すると、角膜炎や皮膚炎などの疾患を引き起こしますが、重症化すると「アメーバ性髄膜炎」という非常に稀な疾患を発症することがあります。
アメーバ性髄膜炎は、発症後の症状の進行が早いのが特徴で、致死率は95%以上と言われています。主に基礎疾患を抱える人の感染リスクが高いとされていますが、最近の日本国内において、基礎疾患がなく、免疫も正常な人が感染する例があるなど、感染の条件がはっきりせず、誰しもが感染するリスクを抱えているのです。
そんな状況の中、有効な抗菌薬は未だ世界中どこにも存在しないのが現状です。
研究者が少ない中でもコツコツと。
そこで、弘前大学の山内先生はアメーバの生息環境や生態を調査し、病態を解析することで感染症の検査や治療、予防に貢献することを目指しています。
現在、日本にとどまらず世界的に見ても、アメーバ性髄膜炎に関しての研究者はほとんどいません。また、このような珍しい感染症は研究報告が少なく、今後発展しづらい分野でもあります。
アメーバの生態調査は、すぐに感染症治療や検査法に結びつくわけではありません。しかし、土壌からアメーバを分離し、生態を調査するという方法により、どのような環境に生息し、どのように感染していくかの調査を進めることで感染の条件を明らかにし、予防法を広めていけるよう日々研究しています。そうして一つずつ地道に問題を解決していくことで、将来の日本医療へ貢献する可能性は非常に高いのです!
最後に、山内先生からのメッセージ
日本国内は特に衛生状態も良く、寄生虫による感染症は非常に珍しいものになりました。しかし、国際化の加速による輸入感染症や、検査技術の向上による新発見の病原体も増えています。
そういった感染症は、検査や治療の技術が未確立なものも多く、世界中の感染症研究者は致死率を低減させるために日々努力しています。
ニッチながらも重要な研究分野である感染症の研究発展に、ぜひ一緒に取り組み、日本医療の未来に大きく貢献しませんか?
研究室でお待ちしています!
土壌に生息するアカントアメーバ
陸奥新報社 2023年(令和5年)8月28日 掲載(PDF)
ライター:人文社会科学部社会経営課程地域行動コース4年 木村 愛華
イラスト:弘前大学教育学部 ひつじ玲汰
担当 :弘前大学研究・イノベーション推進機構