- 新永悠人
- NIINAGA YUTO
- [ 人文社会科学部 日本語学研究室 准教授 ]
奄美や沖縄の方言だけが持つ不思議な音
探究心旺盛な小中高生の皆さんに向けて、弘前大学の先生たちのユニークな研究を紹介するこの連載。今年度からシーズン2に突入です。今回は「奄美大島と沖縄の方言」についての研究です。
地域によって別々の発達を遂げて、その地域でしか通じないような言葉や発音へと変化している方言。身近なものでは津軽弁や南部弁がありますね。皆さんはこのような方言を「古めかしさ」や「歴史」のような連想だけで考えていませんか? 方言は今も各地域で自然に話されている言葉です。しかも、その方言の中には、とても珍しい発音が聞けるものもあります。
例えば、奄美大島や沖縄の方言には、ワ行に2種類の区別があります。みなさんが自然に発音できる「ワー」であれば「私の」という意味になるのですが、喉の奥で一瞬空気を止めた「ッワー」のような発音は、奄美大島では「豚」を意味します。この「ッワ」のような発音は世界的にとても珍しい発音で、日本では奄美と沖縄の方言でのみ聞くことができます。
日本の方言も世界中で話されている言葉の1つ
方言をこのように世界中の言語と比較してとらえようとする研究は実はまだまだ少ないと言われています。本学の新永悠人先生は、日本で話されている方言を世界中の言語と比較しながら分析する研究をしています。新永先生は、海外の言葉を研究している人でも分かるような言語学共通の用語を使用して「奄美方言の文法書」を作成しました。
その中でも少し珍しい用語を1つご紹介しましょう。例えば、日本語には「私」(単数)と「私たち」(複数)の区別がありますよね。英語も同様です(単数のIと複数のWe)。しかし、奄美方言には、「わん」(私)と「わーきゃ」(私たち)という単数と複数の区別だけではなく、「わってぇー」(私と聞き手の二人のみ)という3つ目の区別が存在します。言語学の用語ではこの「わってぇー」のような区別を「双数(そうすう)」と呼びます。双数は三人以上を指すときには使えないのですが、世界に目を向ければ、アラビア語やハワイ語など様々な言語で使われています。
近頃では、特に若い世代の皆さんが方言を話せなくなってきています。方言は、「共通語との違い」や「古くから地域で伝わってきた伝統的なもの」として見られがちですが、このような「いにしえ意識」が方言を遠ざけているのかもしれませんね。
最後に、新永先生からのメッセージ
方言と共通語を話せる人は、まさしくバイリンガルです。それは言語の研究者から見たら、貴重かつ立派な才能です。そして、方言を含む世界中の言葉の仕組みは実はまだほとんど解明されていません。その謎を明らかにしたいと思う方は、ぜひ私の研究室へお越しください。
双数の説明図
陸奥新報社 2022年(令和4年)5月30日 掲載(PDF)
ライター:弘前大学人文社会科学部 3年 北畠 実里
イラスト:弘前大学教育学部 ひつじ玲汰
担当 :弘前大学研究・イノベーション推進機構