金属を組織制御して未知の材料を作る。まるで現代の錬金術!
探究心旺盛な中高生の皆さんに向けて、弘前大学の先生たちのユニークな研究を紹介するこの連載。今回は「組織制御」によって、高性能な金属材料を作り出す研究です。
まずは身近な話から。よく飛行機について「鉄の塊が空を飛ぶ」と言ったりしますね。でも現在では軽量化のため、鉄よりもアルミ合金が多く使われています。元々アルミは軽いものですが強度が足りないので、銅を混ぜて軽さと強さを両立したのがアルミ合金。「合金化」によって金属の性質が変わるって面白いと思いませんか?
そしていま「合金化」と、叩いたり高い圧力をかけたりする「加工」、高温加熱と冷却による「熱処理」、この3つによる「組織制御」によって高性能な金属材料を生み出す研究が盛んに行われています。しかも合金の元となる金属の選択と配合割合、加工の手法、熱処理の温度など各要素の組み合わせは、ほぼ無限。その中から時代を変えるような新材料が生まれるかも、と思うと、何だか科学を駆使した錬金術みたいでワクワクしますね。
軽く強く、しなやかでさびづらい。超軽量マグネシウム合金。
そんな中、本学の峯田才寛先生の研究チームが開発した「超軽量マグネシウム合金」が注目されています。
マグネシウムは、アルミよりも軽くて強い金属。ただし、割れやすく成型が難しい点と錆びやすい点が実用化を阻んできました。そこで峯田先生は試行錯誤の末、リチウムを混ぜて合金化、巨大ひずみ加工と高温での熱処理を施すことで、これまでの課題をクリアしたのです。
近い将来、飛行機や自動車の部品として普及すれば、燃費の大幅な向上によって世界的な省エネとなります。また、無害なので骨折時に体内に入れるプレートへの応用も期待されるなど、夢が広がる金属材料なのです。
最後に、峯田先生からのメッセージ。
「銅や鉄など人類と金属の付き合いは数千年に及びますが、現代では組織制御によって新たな金属材料が増えています。私たちもマグネシウム以外に銅やアルミ、亜鉛などの組織制御にも取り組んでいます。金属の世界は未知のことが多く、素朴な疑問や前例のない試みが大きな発見につながることもあるのが醍醐味。もし興味が出てきたら質問はもちろん、研究室の見学希望も大歓迎なので気軽に問い合わせてください。一緒に金属の世界を探求してみましょう」。
高温(900℃)の熱処理による赤熱する金属(左:鋼、右:真鍮)
陸奥新報社 2021年(令和3年)10月18日 掲載(PDF)