- 君塚道史
- KIMIDSUKA NORIHITO
- 専門 食品保蔵工学
- [ 農学生命科学部 食料資源学科 准教授 ]
[ 大学院地域共創科学研究科 ]
探求心旺盛な、中高生の皆さんへ。
中高生の皆さん、毎日の暮らしの中で「なして?」と思うことはありませんか?「なして?」は探究心の小さな小さな芽のようなもの。それを大切にしてほしいという願いと共に始まるのがこの新連載です。毎回、弘前大学の先生達が皆さんと同じような「なして?」の気持ちで取り組んでいるユニークな研究をご紹介。面白い題材やテーマが次々出てきますのでお楽しみに!鰹節の断面が、ガラスみたいにキレイなこと、知っていますか?
第一回目は「アモルファス状態の食品」のフシギさについてです。 皆さんは鰹節をまじまじと見たことがありますか? 身近なのは削り節ですが、元の鰹節は一本の木材みたいに硬いもの。それをパキッと割るとその断面は光沢と透明感があり、まるでガラスみたいにキレイです。食品がガラスに似てるってフシギじゃないですか? 実はこれ、見た目が似てるだけでなく、物質の状態という視点ではどちらも「アモルファス状態」と呼ばれる同じ仲間なのです。 アモルファスとは、硬い物質なのに結晶構造の固体ではなく、非結晶で液体のような性質を持った状態のこと。代表的なものがガラスなのでガラス状態という時もあります。 ここで砂糖の例を見てみましょう。濃い砂糖水から結晶を成長させると硬い固体の氷砂糖ができます。一方、砂糖を加熱して融解した後、急速に冷やして固めたのが飴で、これがアモルファス。飴細工という言葉がガラス細工にもイメージが重なりますね。 そして飴は湿気るとべたべたになりますが、氷砂糖はそうはならないので保存食になります。同じ成分でも状態が変わると性質も変わるというのが面白いところです。アモルファスの研究で、食品をもっとおいしく保存できるかも。
本学の君塚先生は、冷凍や乾燥による食品の状態変化が保存性やおいしさにどう影響するかを研究しています。 その研究の先にある、実現が楽しみな課題の一つが、アモルファス状態の冷凍食品。乾燥するとアモルファス状態になる鰹節と違って、 食品を冷凍でアモルファスにするのは難しいそうです。理由は、冷凍食品には沢山の水が含まれていて、その水は氷(結晶)になりやすい性質を持っているから。これがもし、水分を結晶化させずにアモルファス状態の冷凍食品ができたら、解凍した後も、グシャグシャにならず、まるで生のような状態であるとのこと。いつか食べてみたいですね。最後に、君塚先生からのメッセージ。
「僕がこの研究を始めたのは、鰹節やキャンディーがガラスみたいに見えることに、キレイだな、フシギだなと思ったことがきっかけでした。皆さんも何かフシギだな?なんでかな?と思ったら、まずはそのものに何度でも触れてみて下さい。ネットで調べることはお勧めしません。そこでわかった気になって、せっかくのフシギが消えてしまうからです。あなただけの素敵な探求心をずっと大切にして下さい」。陸奥新報社 2021年(令和3年)5月31日 掲載(PDF)