- 藤嶋洋平
- FUJISHIMA YOHEI
- [ 被ばく医療総合研究所 リスク解析・生物線量評価部門 助教 ]
AIを活用した放射線量の推定
大量の放射線を浴びるとDNAが傷つき、染色体異常が生じることがあります。受けた放射線の量が多いほど染色体異常も多く現れるため、異常の数を調べることでどのくらい放射線を受けたのかを知ることができます。この方法を「細胞遺伝学的線量評価」といいます。
しかし、信頼性を高めるためには、1,000枚もの染色体の写真を見て分析する必要があります。自動で染色体異常を見つけてくれる機械もありますが、非常に高額で、導入は容易ではありません。また、自分の目で確認する方法も人間の力では限界があり、緊急時には対応しきれません。弘前大学の藤嶋洋平先生は、これらの課題にAI(人工知能)を活用して解決することはできないかと考え、研究を進めています。
身近に潜むリスクと被ばく医療体制の課題
私たちは日常的に、宇宙や大地からの自然放射線を浴びており、食物にも自然由来の放射性物質が含まれています。さらに、放射線を使っている施設も意外とたくさんあります。レントゲンを使う病院や原子力発電所などに加え、空港の荷物検査や、ひび割れの検査でもX線を用いることがあります。このように、放射線を使う多くの機会があるため、放射線事故のリスクはあらゆるところに潜んでいます。もしも放射線事故が起こった場合、被ばくした人がどのくらい放射線を浴びたのか、すぐに治療が必要な状態なのか、といった判断ができる人や場所がとても重要になります。
そのため、過去の放射線事故の経験から学び、被爆線量推定のための体制整備が進められています。日本では、こうした研究を行う機関は少なく、若手の研究者もほとんどいないという課題があります。
みんなでより良いシステムに
藤嶋先生は、AIに染色体の写真を読み込ませて学習させ、自動で染色体異常の検出や計測をする方法を研究しています。そして将来的には、AIを活用した線量評価の方法をオープンなものとして公開し、必要とする人に活用してもらいたい、みんなで知識を持ち寄ってより良いシステムにしたいと考えています。「三人寄れば文殊の知恵」という言葉があるように、様々な知識を持った人たちが集まれば新たなアイディアが生まれ、一人では解決できない問題も乗り越えられる可能性があります。
さらに、AIシステムを用いることで、より多くの人が線量評価に参加することができ、緊急時の人手不足解消も期待できます。病状や治療について、線量の評価を通じてより迅速に説明できれば、被ばくした患者さんやその家族の不必要な不安を軽減することにも繋がると考えられます。
最後に、藤嶋先生からのメッセージ
私は大学に入って初めて生物の授業を受けました。その時に「こんなに面白いことがあるんだ!」と感動したのを覚えています。このように、「面白いな」「なして?」と感じられるものはいろんなところにあります。研究をしてみたい、と思っている中高生の皆さんは、気になったものには果敢に挑戦してみてください。
また、私が研究している、傷のついた染色体の数を見て線量を測定するという方法は、1960年代からずっと用いられています。正確で信頼性があるから使われ続けているというのはもちろんですが、逆に言えば、それに代わるものが未だに現れていない、ということでもあり、この分野でも、まだまだやれることはたくさんあります。興味を持った方がいらしたら、一緒に技術の改良開発に取り組めると嬉しいです。研究室でお待ちしています!
陸奥新報社 2025年(令和7年)5月26日 掲載(PDF)
ライター:人文社会科学部4年 野村 侑以
イラスト:弘前大学大学院地域共創科学研究科 赤沼 しおり
担当 :弘前大学研究・イノベーション推進機構