形態・DNA分析からみたイネの歴史的適応過程

内容

 沖縄から北海道までの73の遺跡から発掘された9,562粒のイネ種子を集めて分析しました。板付遺跡など弥生時代に稲作発展に大きく貢献した地域のイネ種子も含み、従来利用されてきた種子のサイズ計測に加えて、イネの由来や類縁関係が推定可能なDNA分析を実施し、イネの生態型だけでなく赤米や白米の存在について推定することが可能でした。429粒の種子でDNAの復元に成功し、熱帯ジャポニカに類するイネの存在を改めて確認できました。東日本の遺跡では、そのイネが古代や中世の青森県で増加していること、サイズが東北辺縁部や稲作が早くに展開した垂柳遺跡のイネより多様であったことを発見しました。熱帯ジャポニカが高温、低温、水害という不良な環境への適応力が強いとされており、北日本特有の稲作環境で生産量を確保するために幾つかの品種を混ぜて栽培していたことを暗示しています。近世には環境変動に強い品種が書物に記されており、分析結果は史実に登場するイネとのつながりを示しました。地下水位の高い低湿地の遺跡から発掘された種子がDNAの残存が良いことも明らかとなりました。